●フキノトウ03.01.25
●サザンカ02.11.24
●カヤ02.10.13
●クルミ02.09.28
●ホオズキ02.09.23
●アキグミ-202.09.23
●アキグミ-102.09.08
●コスモス02.08.31
●サルスベリ02.08.23
●トキワハゼ02.08.20
●ネムノキ02.08.18
●コウホネ02.08.13
●キツネノカミソリ02.08.12

フキノトウ
03.01.25
フキノトウには雄と雌がある。
雄は花が終わるといつの間にか枯れてしまうが、雌は30〜50cmまでも伸びて白い綿毛をつける。その姿からフキノトウを連想することはできないので、ほとんどの人はフキノトウであることを知らないし、教えても信じない。
特別きれいなわけではなく、どこにでもあるため、誰も気にもとめない花だ。

◆  ◆  ◆


大学を卒業した年の5月の連休、昔の仲間の妹の一周忌があって帰省した。
法要の後、久しぶりにあった仲間と3人で墓参りにいった。ゴクラクが一升瓶を持ってきていたので、自然に墓の前で酒盛りが始まる。ゴクラクというのはあだ名で、子供の頃は一番仲がよかった友だちだったが、中学を卒業すると集団就職で東京に行ってしまい、その後は会っていなかった。
草むらに座り込み、湯飲みで酒をかわしながら、昔の話をした。
とても天気がいい日で、目の前には珍しく月山がくっきりと見え、風がさわやかでぽかぽかと暖かかったのを覚えている。
「ヨシコはなんぼだけ、20なたけが。めじょけねの〜」
ゴクラクがぽつんといった。
ゴクラクは、東京で職を転々と変え、3年ほど前に実家に戻ってきて、今は地元で旋盤工をやっているという。この秋には近所の農家に婿入りが決まっているといった。
あまりうれしそうではなかったので聞いてみると、私も知っている小さな農家で、去年父親が酒が元で亡くなり、子供は娘一人で、この春に中学を卒業したばかりだという。祖父母はいるのだが二人とも寝たきりで、働き手は母親一人。ゴクラクとは遠い親戚という関係もあって婿養子の話は親同士で勝手に進んだということだった。
「おれは種馬みでえなものだ。田もど仕事ど種付けのため婿行くようなもんだ。おれは百姓くれしかでぎねさげ、それでもいいなだども、娘はどう思うが…、あんまり気がすすまねんだや」
自分をなにかに例えるのが口ぐせで、冗談の好きなゴクラクだったが、酒で赤くなった顔でいつまでも愚痴をこぼした。
ケンジはもうすっかり酔っていて、ゴクラクの肩を何度もたたきながら、女は強いから気にすることはない、一緒に百姓をやろう、これからは百姓の時代がくる、と大声をあげていた。
私はただにやにや笑いながら二人の話を聞いていただけだった。
二人とは話があまり合わなかったので、二人が気勢を上げている間に、私は墓地の周りを歩き回った。
その墓地は新墓と呼ばれ、戦後になって田んぼのまん中に作られたもので、どの墓も新しく、しかも石の柵を巡らすなど凝った造りの墓が多い。しかし、手入れをしている様子はなく、周りは雑草に覆われていた。よく見ると綿毛をつけた40〜50cmの草がところどころに生えている。いつも見なれているはずなのだが、名前がわからない。
墓地を出る時にゴクラクに聞いてみた。
「アモや、わだば何にも知らねの。これは"おなごばんけ(雌のフキノトウのこと)"だ」
とゴクラクは笑った。
フキノトウに雄と雌があることをその時はじめて知った。
それから帰り道はフキノトウの話になり、おれはフキノトウの雄だ、用がなくなればお払い箱、雄が死んでも雌はどんどん大きくなって子孫を残す、
「おなごは強えの〜」
とゴクラクは感嘆したように叫んだ。

イメージ
▲新墓(02.10撮影)と雲に隠れた月山。

◆  ◆  ◆

次の日、私は家の周りに咲いていたフキノトウを写生し、色紙に墨絵で仕上げてゴクラクに渡した。私は結婚式には出られそうもないので結婚祝の先渡しだ、といって……。
それからゴクラクに会うことはなかったが、噂ではいろいろ聞かされていた。そして、不遇な一生を30才で終えたことも……。