●フキノトウ03.01.25
●サザンカ02.11.24
●カヤ02.10.13
●クルミ02.09.28
●ホオズキ02.09.23
●アキグミ-202.09.23
●アキグミ-102.09.08
●コスモス02.08.31
●サルスベリ02.08.23
●トキワハゼ02.08.20
●ネムノキ02.08.18
●コウホネ02.08.13
●キツネノカミソリ02.08.12

アキグミ-2
02.09.23
まだ、日の出前で、月山の後ろの空が、薄いピンクに染まりはじめていたが、それは雨になる前兆だった。こんな日に雨になるということ、そして、こんな日にはよく釣れるということは経験で分かっていた。
裏の「あけちば」でミミズを捕まえ、鯨の缶詰めの空き缶に入れて、赤川に走った。ちょうどグミが真っ赤に熟れていて、私はグミをほおばりながら、そっといつもの釣り座に腰を下ろし、仕掛けを作りはじめた。
鯉が回ってくるまでは充分時間があったが、なぜか焦っていて、竿を横にずらそうとしたとたん、ミミズの入った空き缶を溜りの中に落としてしまったのである。ミミズは一塊になって、ゆっくりと溜りの底に沈んで行った。ミミズをもう一度捕まえに行くには時間がない。細かい雨が少し落ちてきて、そろそろ鯉が回ってくる。

◆  ◆  ◆
イメージ
▲秋の雲と金峰山。(2002.09.15午後4:00頃撮)赤川からは金峰山がこのように見えた。

私はその春、同じようにミミズを川の中に落としてしまって、試しにネコヤナギの白い芽を餌にして、大きなハヤを釣ったことがあった。そのことを思い出し、周りにたくさんあるグミの実は餌にならないだろうかと考えた。迷っている時間はない。釣れなくてもともとなのだ。
グミの実の種を取り出し、2〜3個針に通して鯉の通り道に沈めた。雨は本降りになってきて、餌が見えにくくなっていた。いつものように鯉が回ってきた。私は息を殺して見守っていた。餌のそばまで来ても見向きもしない。ああ、やっぱりだめか、と思った瞬間、先頭の一番大きな鯉が突然真っ赤なグミの実に飛びついたのである。
あとはもう夢中だった。竿を上げようにも重くて上がらない。鯉はあまり暴れるわけではなく、水面近くまではくるのだが、それ以上は上がらないのだ。しばらくは我慢較べになった。鯉は時々思い出したように反転して水の底に潜ろうとする。私は必死にこらえて、また、水面に引き戻す。竿は兄のもので、磯釣り用の庄内竿で仕掛けは黒鯛仕掛けだ。めったなことで切れることはないのだが、竿が柔らかすぎて、鯉を抜きあげることができない。反対の中州側に行けば浅瀬に引きづりあげることができるのだが、その手立てはなかった。
1時間くらい経ったと思う。沈礁の上は足場が悪く、ともすれば水の中に引きづり込まれそうになる。雨は激しくなり、私は疲れ果てていた。そろそろ学校に行く時間である。私は竿を手から離した。竿は水面を滑るように走り、川に迫り出した柳の下に消えて行った。
しばらくは茫然としていたが、そのうちに興奮で体中が震えてきた。捕まえ損なった悔しさはなかった。雨でびしょぬれになってはいたが、寒さのせいではなく、なぜか手足がいつまでも震えていた。

◆  ◆  ◆

その日は学校に遅刻したが、それよりも、なくした兄の竿の方が気になっていた。学校から急いで戻り、いつものところに行くと、竿が水面にぽっかりと浮いていて、針はなくなっていた。
その次の日から、私は釣りに行くのをやめた。